日本図書館文化史研究会
2024年度研究集会・会員総会のご案内


 本年度は,龍谷大学梅田キャンパス(大阪府大阪市)で研究集会・会員総会を実施します。同大学での開催は2018年以来,6年ぶりとなります。現地開催に加え,コロナ禍に際して行ってきましたオンライン配信の併用を予定しています。特別講演1件,個人発表4件,会員総会を行います。ぜひ,多くの会員の皆さまにご参加いただき,活発な議論を期待したいと思います。

○日  程: 2024年9月7日(土)〜8(日)
○場  所:  龍谷大学梅田キャンパス
   〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2丁目2-2
   ヒルトンプラザウエスト オフィスタワー14階
   ※オンライン配信(Zoom)を併用予定。

○参 加 費: 会員:500円  非会員:2,000円
   ※会場参加の方は会場で申し受けます。
     オンラインで参加希望の方には,予稿集発送時に振込票を同封いたします。
○申込方法: 次の1から4の事項を明記のうえ,事務局まで電子メールでお申し込みください。
○申 込 先 : 電子メール:office「アットマーク」jalih.jp
*上記,「アットマーク」は@に変更してください。送信件名に「研究集会参加」とお書き願います。

○申込締切 : 8月末日(必着)

・オンライン参加者には,開催前日までに,申込時のメールアドレス宛にZoomアクセス先「ミーティングID」をお送りします。また,予稿集1部と振込票を事前郵送します。



○プログラム
●9月7日(土)
  13:00     受付開始
  13:15‐14:15 会員総会
  14:15‐14:25 休 憩
  14:25‐14:30 研究集会開会あいさつ 小黒浩司(当研究会代表)
  14:30‐16:00 特別講演 塩見 昇(大阪教育大学名誉教授)
         「私の学校図書館史研究―それはなぜ,どのようにして,何を確かめようとしたのか―」
  16:00‐16:10 休 憩(質問紙の記入・回収)
  16:10‐16:40 質 疑
  17:15‐    懇親会
         *大阪駅近辺で,参加費5,000円程度で予定しております。
          参加希望の方は,お申し込みの際にその旨,明記ください。
          後日,会場をお知らせします。

●9月8日(日)
午前 司会:新藤透(國學院大學),柳勝文(龍谷大学)

  10:00‐11:00 個人発表1 鈴木宏宗(国立国会図書館)
           「「国立図書館」の発見:
            東京図書館(帝国図書館),台湾総督府図書館,朝鮮総督府図書館,関東庁図書館」
  11:00‐11:10 換気休憩
  11:10‐12:10 個人発表2 三浦太郎(明治大学)
             「『百科全書』における知識体系の分類」
  12:10‐13:20 昼食休憩

午後 司会:鈴木宏宗(国立国会図書館),松崎博子(就実大学)

  13:20‐14:20 個人発表3  巽照子(図書館問題研究会大阪支部)
            「図書館問題研究会大阪支部55年誌を発行して」
  14:20‐14:30 換気休憩
  14:30‐15:30 個人発表4 紙谷寛(神戸大学/元枚方市立図書館)
            「比較図書館史の試み―「中小レポート」は東京と大阪でいかに実践されたか―」
15:45-16:45 運営委員会


○ 特別講演要旨

■特別講演■
    塩見昇(大阪教育大学名誉教授)
 「私の学校図書館史研究―それはなぜ,どのようにして,何を確かめようとしたのか―」
 昨年(2023)の春,5年ほどの歳月を重ねて『塩見昇の学校図書館論―インタビューと論考』(日本図書館研究会)と題した少し大きめの本を出した。私が1971年に公共図書館の現場から大阪教育大学の教員職に転じ,それまで全く無縁であった学校図書館と向き合うことになって以来,1980年代半ば頃までを主に苦闘を重ねた学校図書館研究の蓄積に興味を持っていただいた学校図書館活動の有為な実践家グループ(ソルトの会)8人からの要請で,私の学校図書館論がどのように形成されてきたかを確かめたいとの申し出に応え,10数回の聞き取りと論議を経て生まれたものである。
 その起点にあった私の最初でもっとも基本的だった命題が,「なぜ学校に図書館が必要か」であり,図書館のある学校はどのような教師の教育実践とのかかわりで存在したかを実証的に確認することだった。その成果の初期のものが1986年の『日本学校図書館史』(全国学校図書館協議会)であり,今回の本も当然そのあたりを重要な一部として構成されている。
 私自身は図書館史の研究を専門とするものではないが,この書の刊行を念頭において本日の講演依頼に至ったものだろうと思量し,私の学校図書館研究において当然に取り上げねばならなかった「歴史」研究部分に焦点化して,副題に掲げたような点に絞った報告をお聞きいただき,ご批判を得ようかと思う。


○ 個人発表要旨

■個人発表■
 ■発表1 鈴木宏宗(国立国会図書館)
 「「国立図書館」の発見:東京図書館(帝国図書館),台湾総督府図書館,朝鮮総督府図書館,関東庁図書館」
 図書館の種類(館種)の一つである「国立図書館」は,公共図書館や大学図書館等に比べて,その役割や活動については,当該地域の状況や成立事情,時代による差が大きく,多様である。近代日本においては,官立の書籍館(1872年開館),東京書籍館(1875年-1877年),東京図書館(1880年開館,1897年に帝国図書館,1947年に国立図書館,1949年廃止)の系譜で「国立図書館」が成立していったとみなされている。その過程において転換期と考えられる1880年代から1890年代の時期を中心に,実態や認識,成立等について考察を行う。また,官立の図書館は,植民地(国内の法律が適用されず相対的に独立していた地域)においても存在しており,台湾総督府図書館(1915年開館)と,朝鮮総督府図書館(1925年開館)及び,関東庁図書館(1929年開館)が,それぞれの地域で図書館活動を行っていた。各館の成立事情や蔵書の構築,さらに地域内での活動等を瞥見して,館種としての「国立図書館」の観点から,これらをどう位置づけることができるか考えてみたい。

 ■発表2 三浦太郎(明治大学)
「『百科全書』における知識体系の分類」
  発表者は,先に,相関図書館学方法論研究会編『図書館思想の進展と図書館情報学の射程』(松籟社, 2024)において,『百科全書』における分類の枠組みについて考察した。『百科全書』刊行に際して,共同編集者ディドロとダランベールは項目全体を俯瞰するための知識体系の大枠を示し,「歴史・哲学・詩」の順序立てとした。これは一見,ベーコン『学問の進歩』における学問分類の踏襲に見える。ベーコンは神の摂理に基づく自然の真理の解明という見地から,自然の発見から記憶へ,そして想像を介した理性の判断へと向かう「記憶・想像・理性」の認識過程を考え,学問分類を根拠づけた。しかし,これにたいし,ディドロとダランベールはロックの認識論の影響を受けつつ,自然界からの働きかけを起点に,観念の知覚,記憶,理性の働きによる観念結合という流れを考察し,そうした認識に基づき学問を整理して『百科全書』の見取図を描いた。本発表では,『百科全書』に関する先行研究や,『百科全書』の刊行当時の状況を整理した上で,ベーコンの学問分類と『百科全書』における知識体系の分類の相違について明らかにする。記憶と理性が直接に結びつき,「記憶・理性・想像」という順序立てを導いた『百科全書』の分類は,ベーコンの分類の枠組みとは異なったと考えることができる。


 ■発表3 巽照子(図書館問題研究会大阪支部)
 「図書館問題研究会大阪支部55年誌を発行して」
  公共施設を取り巻く状況は厳しさを増している。2000年代に入って加速度的に進められた新自由主義経済政策によって,公的な役割が疎かにされ,民間活力を導入する流れに図書館も巻き込まれ,外部委託するなど改変が進められている。
 また大都市,地方においては,中心都市への集中化が進められ,図書館整備もあおりを受けている。施設の再編にともない,図書館サービス縮小や施設の廃止の目論見が目立つ。でも,本当にこの方向で日本の国は豊かになれるのだろうか。
 今,できることは何か。「歴史に学べ」という言葉がある。そこで大阪の図書館運動をけん引してきた支部の歴史を振り返り,活動を55年史としてまとめることになった。
 大阪における図書館界の進展をどのように進めたのか。魅力的なサービスを届けるための現場での実践,未設置の自治体に図書館を設置する振興政策づくり。さらに住民とともにどう力を合わせてきたかを書き記すことにした。
 未来社会が平和で,明るくなることを求めたい。そのためには,国民が賢明になることだ。ひとりひとりが深く考えるためには,身近な図書館の頼もしい司書による確実な資料提供が欠かせない。 長い目で見れば,世の中はらせん状に発展していく。今より高い次元の図書館は,どうしたら作れるのか。55年の歴史の階段を登りながら,みんなで考えるための材料になればと思っている。


 ■発表4 紙谷寛(神戸大学/元枚方市立図書館)
 「比較図書館史の試み―「中小レポート」は東京と大阪でいかに実践されたか―」
  「中小レポート」(日本図書館協会が1963年に刊行した『中小都市における公共図書館の運営』の略称)は,「現代日本の公立図書館論の源流であり,戦後の公立図書館発展の歴史的転換点に位置している」(山口源治郎)ものとして図書館関係者にはよく知られている。
 立案に参画したのは東京を中心とする図書館関係者と図書館員であり,その実践も三多摩にあった日野市立図書館を嚆矢として全国に広まったとされる。ある自治体で政策が革新(イノベーション)され成功を収めた場合,他の自治体はそれを参照し自らの政策に取り入れる。「中小レポート」を政策として見るならば,そのような政策の参照・波及が,東京と大阪の間で起きたのである。今回の報告では,東京都の日野市と「関西の日野」を目指した大阪府の枚方市を詳しく取り上げる。
 以上が今回の発表の骨子であるが,「あらゆる歴史は現代史である」という言葉があるように,現在の図書館のことにも触れなければならない。21世紀に入る頃から戦後一貫して成長を遂げてきた図書館の趨勢が,2010年前後を境に反転し陰りを見せ始めているのである。このような状況に対して当然戦後図書館の発展を牽引したとされる「中小レポート」が問題とされる。批判のターゲットはまさに「中小レポート」に象徴される戦後公共図書館史の解釈にあった。そこではかつて輝いた図書館を「神話」としてみる。しかし今回の発表では,統計書を主に史料に基づき戦後図書館史を現実に生起した歴史の事実として「非神話化」することを試みる。
 最後に図書館史研究の主体についても触れておきたい。図書館史研究は通常大学の司書養成課程にある教員によってなされている。もちろんオーラル・ヒストリーという形で図書館員が語るケースもあるが,ほとんどの場合活字にはならない。図書館という現場にあった「司書」が,歴史を語る意義についても論じたい。



最新の研究集会・研究例会案内に戻る