日本図書館文化史研究会
2023年度研究集会・会員総会のご案内


 本年度は岩手県盛岡市で研究集会・会員総会を開きます。実地開催のほか,オンライン配信を併用します。特別講演1件,個人発表4件,会員総会を予定しています。会場校の盛岡大学・吉植庄栄氏のご協力により,9月8日と9日に見学会を企画しております。ぜひ,多くの会員の皆さまにご参加いただき,活発な議論を期待したいと思います(なお,コロナ禍の状況等によって,開催方式が変更となる場合があります)。

○日  程: 2023年9月8日(金)〜10(日)
○場  所:  アイーナいわて県民情報交流センターほか
   〒020-0045 岩手県盛岡市盛岡駅西通1-7-1
   ※オンライン配信(Zoom)を併用。

○参 加 費: 会員:3,000円  非会員:4,000円
   ※会場参加の方は会場で申し受けます。
     オンラインで参加希望の方には,予稿集発送時に振込票を同封しますので,ご対応ください。
   ※関係者(岩手県立図書館・岩手県立大学の教職員,図書館学を学ぶ大学生)は無料となります。
     申込時にその旨をお知らせください
   ※9月9日(土)に懇親会を実施予定です。
     参加希望者は,別途,受付時に懇親会費5,500円を申し受けます。

○申込方法: 次の1から5の事項を明記のうえ,事務局まで電子メールでお申し込みください。
○申 込 先 : 電子メール:office「アットマーク」jalih.jp
*上記,「アットマーク」は@に変更してください。送信件名に「研究集会参加」とお書き願います。

○申込締切 : 8月25日(金)(必着)

・オンライン参加者には,開催前日までに,申込時のメールアドレス宛にZoomアクセス先「ミーティングID」をお送りします。



○プログラム
●9月8日(金)
15:00-16:30 オプショナルツアー1 もりおか歴史文化館(盛岡市内丸1-50)見学
        ※見学希望者は直接,14:50までに会場入り口までお越しください。
        ※当博物館は,移転前の岩手県立図書館(1967〜2005年)の建物を転用したものです。
        ※盛岡駅東口からバスで10分[アクセス詳細]

●9月9日(土)
11:00-12:00 オプショナルツアー2 岩手県立図書館見学(アイーナいわて県民情報交流センター3・4階)
        ※見学希望者は直接,10:50までに会場3階入り口までお越しください。
        ※JR盛岡駅から徒歩4分[アクセス詳細]

14:00-16:30 会員総会・特別講演
        ※会場:マリオス盛岡地域交流センター18階 181会議室 [アクセス詳細]
        ※JR盛岡駅徒歩4分。アイーナいわて県民情報交流センターの正面建物。[フロア図]

  13:45     受付開始
  14:00‐14:50 会員総会
  14:50‐15:00 休 憩
  15:00-16:30 特別講演 小川知幸(東北大学)
          「東北帝国大学附属図書館の蔵書構築:理科大学と法文学部」

17:30-    懇親会 番屋ながさわ(盛岡市菜園2-6-1) [詳細]
             ※参加希望者は,申込時に4(c)欄にて「懇親会参加希望」とお書きください.

●9月10日(日)
10:00-15:30 個人発表4件
        ※会場:岩手県立大学アイーナキャンパス
            (アイーナいわて県民情報交流センター7階学習室1)[詳細]
        ※JR盛岡駅から徒歩4分 [アクセス詳細] [7階フロア図]

  10:00‐11:00 個人発表1 杉本ゆか(駿河台大学)
              「英語ではなぜ「図書館」といえばlibraryでありbibliothecaではないのか」
  11:00‐11:10 換気休憩
  11:10‐12:10 個人発表2 三浦太郎(明治大学)
               「有山ッの第一線図書館観の変化」
  12:10‐13:20 昼食休憩

  13:20‐14:20 個人発表3 山本和哉(青森県近代文学館)
              「青森市民図書館の歴史:商業施設との複合化の一例として」
  14:20‐14:30 換気休憩
  14:30‐15:30 個人発表4 石黒志保(山形大学)
              「山形県における「追放図書」の実態」
15:45-16:45 運営委員会


○ 特別講演要旨

■特別講演■
    小川知幸(東北大学)
 「東北帝国大学附属図書館の蔵書構築:理科大学と法文学部」
 東北大学では2022年(令和4)に創立115周年・総合大学100周年を記念する祝典がおこなわれた。1886年(明治19)の帝国大学令公布以来,明治30年の京都帝国大学に続き,上級学校の「過疎地」であった東北に,1907年(明治40)になって東北帝国大学設置の勅令が公布されたのである。仙台には分科大学の配置上,理科大学が設置された。ただし,帝国大学は総合大学でなくてはならぬという理念から,当初は札幌農学校を東北帝国大学の農科大学としたが間もなく移管され,医・工専門部の設置を経て1922年(大正11)に法文学部が設置された。これにより東北帝国大学は名実ともに「総合大学」になったとされる。附属図書館の構想も,理科大学(のちに理学部)と工学部,そして法文学部という成り立ちに影響され,一時は理・工/法文の二部制がとられた。すでに1912年(明治45)に約7万3千冊におよぶ狩野文庫が購入されており,いずれは文系が中央図書館となるという予測から図書館を二つに分けたのだった。法文学部の創設は第一次世界大戦後の時流に乗り,数年のうちに約4万冊の洋書を購入した。既存の分科大学を順次併合することで蔵書を増やした東京帝国大学との違いである。講演では,理科大学および法文学部の初代教授たちがどのような図書を購入したか,また,購入過剰から返本や売却に至った状況を,原史料をもとに紹介したい。


○ 個人発表要旨

■個人発表■
 ■発表1 杉本ゆか(駿河台大学)
 「英語ではなぜ『図書館』といえばlibraryでありbibliothecaではないのか」
 本発表では,英語のlibraryとbibliothecaの語源を追いながら,なぜ現代英語で図書館を指す際にlibraryが主流であるのかを考察する。libraryは後期ラテン語libariaに起源をもち,古フランス語のlibrairieや中英語を経たもので,1430〜40年頃にlibraryが使われた形跡がある。一方,bibliothecaは,ギリシャ語からラテン語biblioth?caを経たもので,現代的にlibraryとして用いられるのは新しい用法である。関連する言葉にフランス語のbibliothequeがある。bibliothecaと同じ起源で,1500〜1600年代にbibliothek等と語形変化したもので,古フランス語にあったlibrairieは主流とならず,現代フランス語ではギリシャ語起源が用いられている。これは,ゲルマン語派の英語とロマンス語派のフランス語がもつ歴史の違いとも考えられるが,英語と同じゲルマン語派に属するドイツ語では図書館のことをBibliothekと綴り,ギリシャ語起源が用いられている。このことから,語派の括りではなく,各言語の背景にある文化的な歴史の違いによって,図書館を示す主流の語がラテン語由来か,ギリシャ語由来かに分かれたと考えられる。考察の際は,英国を中心とした図書館史も概観しつつ進める。

 ■発表2 三浦太郎(明治大学)
「有山ッの第一線図書館観の変化」
 有山ッは,戦後,日本図書館協会事務局長(1949-66)として図書館理解に関わる議論を主導したことで知られる。その図書館制度構想において,当初中心的な役割を担ったのは,第一線の市町村立図書館の背後からその機能を調整・指導・援助する第二線の都道府県立図書館であり,この種の「中央図書館こそ・・・新しい図書館体系における中核」と位置づけられた(「図書館は生きている」<1950>)。その後,大衆から新しい教養が生み出される際の「産婆役」として,図書館の役割に対する意識が変化する中で,第一線図書館こそが中心視されるようになり,「極言すれば第二線図書館は間接的存在で,第一線への援助部隊」と認識が変化した(「地域社会における公共図書館の課題」<1957>)。さらに1962年の訪欧時に,全国的に小図書館が設置されるデンマークや,図書館未設置の空白地域を分館や自動車文庫でカバーするイギリスの事例を目の当たりにし,建物ではなく資料こそが図書館の第一の構成要素であるとする認識の深まりが見られた。こうした経験は,「中小レポート」序文(1963)や『市立図書館:その機能とあり方』(1965)に凝縮されることとなった。本発表では,拙稿「有山ッの図書館思想」(『図書館の社会的機能と役割』松籟社, 2021, p.91-125)ではあまり取り上げなかった有山の訪欧経験を具体的に整理しつつ,その第一線図書館観の深まりを考察したい。


 ■発表3 山本和哉(青森県近代文学館)
 「青森市民図書館の歴史:商業施設との複合化の一例として」
 1975年の開館以来,棟方志功記念館などの複数の文化施設を周囲に有する「文化ゾーン」と呼ばれる地域でサービスを続けていた青森市民図書館は,駅前再開発ビル「アウガ」の6階から9階を占める形で,2001年に移転開館した歴史を持つ。地下1階から4階までの商業スペースを持ち,市の中心部に都市機能を集約させるコンパクトシティ構想の柱としてオープンしたアウガだったが,2016年には事実上の経営破綻,2017年には商業テナントが全て撤退し,空いたテナントには市役所の一部を移転させることになった。このように,市民図書館は単独館として開館してから,商業施設との複合館として移転,さらには行政施設との複合館へと移行するという複雑な歴史を持つ図書館である。  今回の発表では市民図書館が移転に至るまでの背景を,青森県の文化的特徴や青森県の明治以降の図書館概史にも触れながら紹介する。また,移転によって生じた図書館にとっての利点や問題点を,図書館の立地や図書館設備の観点から考察する。90年代以降の日本の図書館の複合施設化の一事例として,図書館の文化・教育施設の在り方を,市民図書館の歴史を通して考えたい。


 ■発表4 石黒志保(山形大学)
 「山形県における「追放図書」の実態」
 1946年6月に発覚した,6万冊もの図書類が山形県下で「追放」された事件は,同年3月17日のSCAPIN-824「宣伝用出版物の没収に関する覚書」の発令前,GHQ本部の意図に反して行われたと見られている。なかでも,同年1月19日から21日の3日間,米沢地域で「追放」された図書は5万冊余りを数え,他地域と比べても突出していたことが,PPB(民間検閲支隊<CCD>内の新聞・映画・放送部門)でも報告されている。
 本発表は,主として市立米沢図書館に残る「重要書類綴」や「図書館日誌」,また米沢軍政部との交渉役であった米沢警察署長の回顧録等から,「追放」の実態について明らかにすることを目的とする。1945年10月の人権指令により特別高等警察が廃止された後も,「特高」と称して書庫に入り,軍国主義色の強い図書を排除したことは,米沢図書館「図書館日誌」にも「大事件」と書き込まれ,戦前も見られなかった行為であった。さらに警察署員が検閲隊を組織し,米沢市内の学校や会社から軍国主義的色彩の図書,写真,絵画等の払拭を図り,また町内会隣組を通じて,家庭内からも自発的に排除するよう指示があったという(「米沢新聞」1946年1月25日)。PPB報告書によれば,山形地域でも約1万冊の図書が「追放」されたが,県内や全国の「追放」状況も考えつつ,戦前戦後の米沢地域の思想的背景も踏まえて検討したい。



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